Zoë
瀧は、大地の地殻変動によって盛り上がった崖の上から、万有引力の働きによってほぼ垂直に水が落下している場所だ。絶えることのない水の流れとそれによって刻まれた岩肌で、儚さと永遠がせめぎ合っている。輝く水と黒い岩の表面には、美しい濃淡があり、そこには偶然という神がつくりあげたとしか思えない調和がある。
瀧壺の前に立っていると、包まれるような温もりを感じる。しだいに心の中の雑音が消えていき、かわりに瀧が発散する何かが私たちの内部に響いてくる。その場の空気感にひたされ、時間が過ぎるのを忘れてしまう。沈黙が、した、した、した、と響いている。瀧は沈黙に満たされた祈りの空間である。
日本では古来から、瀧は龍神の顕れる場所、子宝に恵まれたり不老不死の水の湧き出す場所として伝えられている。古代の人々は水の奔流に永遠の生命を感じ、あるいは実際に瀧壺から天へと龍が立ち昇っていく姿を見たのではないか、と夢想する。現代人は文明の発達と引き換えに、幻視する能力を失ってしまったかもしれない。しかし、私たちは細部まで目を凝らすことで、見えないものの曖昧さにできるだけ近づき、沈黙のしたたる場所の空気感をイメージとして結晶化させたいと願う。
Gelatin silver print / Edition of 20
Paper size: 16 by 20 in. 40.6 by 50.8 cm.