名古屋市美術館ニュース アートペーパー 第101号 2016年春号

水野誠司・初美(1968- /1970- )
 水野誠司・初美夫妻は、ヘルシンキ芸術デザイン大学(現アールト大学)写真学科を修了し、その後、写真家・プリンターのStig Gustafsson氏に師事。現在は名古屋を中心に写真を発表している。ユニットでの制作は、完全な分業ではなく、それぞれが撮影を受け持ったりプリントを受け持ったりと、その時々に必要な仕事を担当しながらのものだという。
 夫妻の写真は主としてフィンランドの情景を写したものであり、その美しい自然や人物、教会などの建物が、繊細な表情をもって捉えられている。技法として「パラジウム・プリント」を使用しているため、ソフトフォーカスがかかったような、ノスタルジックな像を得ているが、この技法の制約として大きなサイズの作品を制作しにくく、小品が多くなっている。覗き込んで鑑賞するような小さめの作品は、そこに映し出された風景や人物への親密な感情を抱かせるものでもあり、遠い異国への距離感とその一方での親密さとが同居して、何か、遠くを懐かしむような不思議な気持ちにさせる。
 近年の新たな展開として、日本国内の滝を撮影することも試みている。また、映像表現への取り組みも見られる。  夫妻は「私たちは美しさやはかない空気感を、光とその諧調にうつしかえ、永遠にとどめたいと思う。それが、人々の精神の糧となり、長く記憶に残る価値ある作品となることを願う。」と記している。夫妻は作品の中で、凍てつく冬のフィンランドの風景をその寒さに至るまで表し、勢いよく滝壷へと流れ落ちる水と飛沫、その周辺の風景を鮮やかに写し出し、それらのもつ「美しさやはかない空気感」を捉えて定着させている。
 夫妻の写真は、写真の本質に迫るものであるが、斬新さや革新性を帯びた作品というよりは、むしろ私たちの感情を緩やかに揺さぶる、しみじみとした世界の表現である。しかし、明らかに現代の表現であり、現代写真のひとつの在り方を体現しているといえるだろう。(AN)

テキスト:中村暁子(名古屋市美術館 学芸員)

アートペーパー 第101号 2016年春号(1.4MB:PDF)

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