水野夫妻の写真に思う

原沢暁子(名古屋市美術館学芸員)

水野誠司・初美夫妻は北欧・フィンランドで写真を学び、帰国して名古屋を中心に活動している写真家である。
フィンランドというと、私が即座に思い浮かべるのはシベリウスの音楽。大国に挟まれて辛い思いをしたフィンランド国民の祖国を愛する心情がひしひしと伝わる「フィンランディア」は、フィンランドの人々の熱い心や情熱を伝えている。それから、可愛らしいけれどどこか奇妙でファンタジックな、トーベ・ヤンソン描くところの「ムーミントロール」の世界。さらに、シンプルで飽きの来ない食器や家具などのデザインも、またフィンランドの違う一面である。しかし、水野夫妻の表現するフィンランドは、それらとはがらりと異なっている。寒さがこちらまで伝わってくるような森の木立や雪景色など、フィンランドの大自然の中で撮影された写真の数々や、街角で撮られた表情豊かな写真。それらは、どこかノスタルジックで懐かしい。フィンランドという異国の風景がこんな風に懐かしさを伴っているのは何故なのだろう。水野誠司さんは、フィンランド人と日本人は少し似ていると話してくださった。

初対面の時になんとなくお互いにはにかんだりするあたりの、素朴で大人しいところが似ているそうである。 人と同様にフィンランドの風景も、日本人である私たちの心に通ずる何かを持っているのかもしれない。夫妻の写真は、パラジウムプリントやサイアノタイプといった、古くからある技法を用いたものである。私たちの心の奥にある過去の記憶を揺り動かすような作品の力は、そういった技法を通じて生まれ出ている。しかし一方で、夫妻の写真が現代的なものに思えることも面白い。過去の古いものや心を大切にしながらも、しっかりと現代の視点からものを見ていくということが、作品の中で実現されているのではないだろうか。そういった視点は、私たちが大事にしていくべきものだと思う。
北欧への愛情に満ちた夫妻の写真は、私たちの心を和ませてくれる。今後も、多くの人が彼らの写真によって懐かしい想いと安らいだ気持ちを得ることだろう。写真という存在のもつ力を改めて教えてくれるような夫妻の作品を、ぜひ沢山の人にお楽しみいただきたい。

(名古屋市美術館常設企画展 ボジション2013 水野誠司・初美展 ― フィンランド・ポートフォリオ ―)

戻る